第17章 ペパーミントラブ
「ナナ、それをボクに」
かけらをNに渡すと、Nはじっとトゲピーを見つめながら、ガレットを差し出した。
トゲピーも不安げにNを見つめ返す。
Nの“ポケモンの声が聞こえる能力”って、会話というよりかはテレパシーに近いようだ。
距離が離れたNとトゲピーの間に目に見えない糸があって、心でつながっている。目の前のやり取りを眺めて、不思議とそんな風に感じた。
しばらくして、Nが悲しげに口を開いた。
「……そうか、キミはこうやってヒトにきのみをもらって捕まえられたから、手から食べ物をもらうのが怖いんだね。でも大丈夫だ。ここにキミを傷つけるヤツは誰ひとりいない」
Nがそう伝えると、頑なに拒んでいたトゲピーに変化が訪れる。
恐る恐るNに近づき、震える小さな手をそっと手のひらへ伸ばす。ひとくちサイズのかけらを受け取ると、慌てながら離れた場所にあるソファーに乗った。くんくんとガレットの匂いを確認してから、がじがじと小さな口を動かして食べ始める。
その様子を一部始終見守っていた博士が、感嘆の声を上げた。
「グレイト!すばらしいわN!この子、人前じゃ絶対に食事しなかったのよ!」
「すごい、私じゃ怖がって近寄ってもくれなかったのに」
「ボクは傷ついたポケモンたちをたくさん見てきた。よくこうやって話しかけていたから、トゲピーが対話してくれるか試してみたんだ」
トゲピーはしばらくガレットを食べていたけれど、結局半分以上残してしまった。やはりまだ、あまり食欲はないようだ。
「Nにはだいぶ警戒心はなくなったみたいだけど、一朝一夕では治らないわね」
頬に手を添え、ヒナギク博士がため息をつく。