第16章 想いを祝福にのせて
「……」
途端に無口になったナナから身体を離す。肩に手を置いて、茶化すようないつもの口ぶりで質問を投げた。
「もう遅いし、オレは送ってやるつもりだったけど?」
ナナは困ったように視線を逸らす。
「う、ん…ありがと」
我慢してるんだろうが、寂しさを微塵も隠しきれていない。無理して繕った笑顔も、表面的な明るい声もバレバレだ。
ほんと、参るよな。
これだけわかりやすいと、困らせたくてたまらなくなっちまう。
「じゃあ、帰るか」
涼しい顔で言う。
すると、ナナはすんすんと自身の肩先を嗅ぎ始めた。不満げな顔つきで、手首や袖の匂いも嗅いでいる。
「なにやってんだ?」
「ほんとに匂い残るかなって」
「どうだった?」
ナナは拗ねた顔で不満をこぼす。
「たりない気がする」
「そう言われてもな」
「これじゃあきっと、5分で無臭になっちゃう。しかも、今吸った分でさらに香りの持続時間が減った気がする」
突然ナナが屁理屈を並べ始めた。一瞬あっけに取られてから、吹き出しそうになるのを堪えて様子を見守ることにした。
「なら嗅がなきゃいいだろ」
「でもそうしないと思い出せないもん。そうグリーンが言ったくせに」
「酔ってないよな…?」
「酔ってないです、飲めないし」
まるでだだっ子だ。たしかに酒はまだ飲めないが、いじけ方がいつもと違う。だとしたら、香水の成分になにかしらの作用があるのか?催淫物質とか、媚薬とか?
「なぁ、エリカに調合手伝ってもらったんだよな?変なの入れられたりしてないか?」
「なんにも。選びながらエッセンスの説明受けたけど、リラックス効果の話とかしか聞いてない」
「そうか…」
もし妙な成分を入れられてたら普段使いできないと思ったが、オレの思い過ごしか。
曲解すると、リラックス効果により、ナナが安心して素直になってるってことかもしれない。