第16章 想いを祝福にのせて
「気になります?」
「ああ、花っぽいけど合ってるか?」
そう聞くと、気まずそうにオレの顔色を伺いながらボソリと呟く。
「…こっそり少しだけ入れたのに、さっそくばれちゃったかぁ」
「毒を盛ったような言い方だな」
「毒ではないけどさ」
そう返しながら、手を背中の後ろで組むと、口の端をわずかに上げて困ったように笑った。
そんな仕草すらかわいくて、手を伸ばしたい衝動を必死に抑えながら、言葉の続きを待つ。
ナナは、顔の横の髪の毛を指でくるくると弄びながら、ちらりとオレの目を覗き込んだ。
「……前にさ、グリーン言ったでしょ?どこにも行くなって」
「そんなこと言ったか?」と、言い返そうとしたものの、思い出してギクリとする。まさかこのタイミングで、告白の台詞を引き合いに出されるとは思ってもみなかった。
「…それで?」
こっ恥ずかしさを胸の内に押し込んで、そっけなく返す。動揺を悟られまいと平静を装う。
「私が好きな花のエッセンスも、ほんの少しだけ入れたんだ……そうすれば、その……つまり、ね……」
肝心なところで、またいつものモジモジが始まる。随分ふたりの時間を過ごしたのに、相変わらずナナは初めて付き合った日のように恥じらいを見せる。
いつもなら、問い詰めて恥ずかしがるナナを堪能するところだけど、誕生日だし特別に甘やかしてやろう。
「離れててもナナと一緒ってわけか」
ナナは視線を逸らし、躊躇いがちに頷いた。
「なら、お前も香水つけるか?」
喜ぶと思いきや、ナナは首を横に振った。
「減っちゃうからいいよ。グリーンに使ってほしい」
「いいから、ほら」
両手を軽く広げ、ナナへと向き直る。
「ほらって……なに?」
オレの意図が読めず、ナナは小首を傾げた。