第16章 想いを祝福にのせて
それにしても、よくこんなに集まったもんだ。
なにも期待してなかったと言えば嘘になる。けど、まさかこんな大勢に祝われるとは思ってもみなかった。
じいさんの言葉に、ふと昔の記憶が蘇る——
『なぜ……なぜ負けてしまったんだ……オレの育て方……間違ってなんかいないはずなのに……』
ポケモンリーグの頂点に立った時、オレは誰よりも強く、ひとりでなんでもできると思っていた。だがレッドに負け、自分の世界がどれほどちっぽけだったかを思い知らされた。
あっけなくチャンピオンの座を引きずり下ろされた瞬間は、今でも胸の奥に深く刻まれている。思い悩んで眠れない夜、古傷みたいに疼いてはオレを苦しめるんだ。
勝負の世界は残酷だ。時間をかけて積み上げてきたもんが、たった一瞬で壊される。
オレに足りなかったものをあいつは持っていた。だからオレは負けた。
清々しいほどにシンプルな話だ。
その後、レッドはまた修行の旅に出て、オレはトキワシティのジムリーダーという道を選んだ。
ジムリーダーを続けるうちに、後輩が育っていく姿を見るのも悪くないと思えるようになった。
保証はなく、先も見えない。それでも諦めずに努力し続ける後輩たちは、オレにとって同志であり仲間だ。
ポケモンたちもそうだ。ずっとオレを信じてついてきてくれた。だからオレも、あいつらとならもっと先へ行けると信じられた。
今なら胸を張って言える。あの時、レッドに倒されたから今のオレがある——と。
だから、レッドへの敗北はオレにとって勲章だ。この痛みがある限り、オレは何度でも見果てぬ夢へと走り出せる。
足掻いて、手を伸ばし、何度だって追いかけてやるんだ。
レッドを見据える。オレの気も知らないで嬉しそうにこっちを見ている。
そのまま視線を周囲へと向ける。オレの周りに集まった、たくさんの笑顔。そのひとつずつを確かめるように見渡した。
来た道を振り返れば、随分遠くまで来ちまったもんだ。
オレはもう、ひとりで世界一だと思い込んでいたあの頃とは違う。今のオレは、こんなにも多くの存在に支えられている。
喜びと共に感謝が溢れてきて、目頭が熱くなる。
……クソッ。こんなの、全然オレらしくねえ。
笑え。堂々と。いつもみたいに余裕ぶっておけ、オレ。