第15章 マジカルハロウィンナイト
「聞きたいことは山ほどあるが——」
グリーンはなにかを言いかけて口ごもると、やわらかく目を細めた。
「まあいいか。こうしてオレの元に戻ってきたわけだし」
「迎えに来てくれてありがとね」
互いの存在を確かめるように、どちらともなくきゅっと手を結び直し、三拍子に身を委ねる。
流れる音楽やきらびやかでかわいい装飾も、グリーンを前にすればピントのズレた背景のよう。視線は自然と彼を追い、頭の中はもうグリーンでいっぱいだ。
「なかなかうまいじゃん」
「なんとなく足を動かすコツは掴めてきたかも。でも、グリーンはどうして踊れるの?」
「オレは付き合いがあるからな、こういうのも基本は抑えてんだよ」
「そうなんだ」
そういえば、サントアンヌ号に招待されたって言ってたっけ。顔が広いし、フットワークも軽いし、ビジネスや社交界でのマナーはひと通り身につけているのかもしれない。
そう思うと、目の前の幼馴染がとても大人びて見えた。
「グリーンも脱出チャレンジしたの?」
「なんだそれ?」
「え?聞いてないの?」
「オレははぐれた後すぐスタッフを呼んだからな」
「じゃあ踊ってないんだ?」
「お前を探し回っててそれどこじゃなかった。電話もつながらねえし」
「……ごめん」
心配してずっと探してくれていたんだ。
それなのに、私を責めないし、文句も言わずに迎えに来てくれた。
今更ながらに、グリーンの優しさにジーンとしてしまった。
グリーンは悪戯っぽく口角を上げる。
「思ってたのとは違ったけど、お互い最高の肝試しになったな」
「グリーンも怖かったの?」
「まあな」
「どんな仕掛けが?ゴーストポケモン?」
「誰が言うかよ」
グリーンは少し顔をしかめた。めずらしく拗ねている。
「教えてくれないんだ?」
「お前はどうせ全部ビビり散らかしたんだろ?」
「そうだけど、今話題逸らしたでしょ」
「いいから、ワルツに集中しろよ」
わざとらしくそっけなく返し、涼しい顔して口を結ぶ。
なんだかそれがおかしくて、口元がほころんだ。