第15章 マジカルハロウィンナイト
控えめなステップで小さく回っていると、遊園地のコーヒーカップに一緒に乗っているような心地になる。
「ナナさん、あの」
「うん?」
「実はボク…もうひとつ謝ることが…」
「なに?」
「…その、ボク、見たんです……」
オニオンくんは躊躇いがちにその続きを口にする。
「さっき、あなたが着替えている間に…グリーンさんが、このホールから出ていくのを…」
「そっか、やっぱりここにいたんだ」
なら、もうおばけやしきを出ている頃だろう。心配しているだろうから、ここを出たらポリゴンフォンを充電して連絡を取らないとだ。
「…でも、ぼっ、ボク……言い出せなくて…」
オニオンくんの声が震えている。
「アナタと、踊りたくて………ごめんなさいっ」
「ううん、私、すごく楽しかったから」
ありがとうの気持ちを込めて、オニオンくんの手をそっと包み込む。
「まるで不思議な世界に迷い込んだみたいでさ」
曲が盛り上がったところで体を離す。オニオンくんは驚いたように顔を上げると、戸惑いながらも腕を引いて私を小さな腕に巻き戻した。
「びっ、びっくりした…!でもっ、たのしいです…!」
「私も!」
「ボク…人と話すのが苦手で…ほとんどゴーストポケモンたちと過ごしていて…」
オニオンくんの手に力がこもる。
「だっ、だから、ナナさんがボクを頼ってくれて…とても嬉しかったんです…」
「私だって、ひとりで心細かったから助けてくれて嬉しかったよ」
出会いは偶然だったけれど、気づけばこんなにも話せるようになっていた。人と話すのが苦手というのは、きっと感受性豊かで繊細な子だからだろう。そんなオニオンくんが「楽しい」と素直な一面を見せてくれたことが、なによりも嬉しかった。
今、仮面の下で笑ってくれているのだろうか。そうだといいな。