第15章 マジカルハロウィンナイト
写真を撮り終えると、キバナさんは丁寧なお辞儀をして一歩下がった。その背中から、ダンデさんが静かに歩み寄ってくる。真紅の燕尾服姿が眩しい。
「すごいな!ナナはダンス得意なのか?」
「いえ、ワルツなんて初めて踊りました」
「そうは見えなかった!美しかったぜ!」
“美しい”なんて、普段言われたことがない。褒められた高揚感でフワフワする思考の中、ダンデさんが私の手を取り体を寄せると、途端に緊張が走る。
「疲れてるか?」
さっきから心臓がバクバクで、麻痺して疲れを感じる余裕すらない。
「いえ…大丈夫です」
「ならこの一曲、めいっぱいオレと踊ろう!」
ぐっと引き寄せられ、最初の一歩でダンデさんの世界に惹き込まれる。力強くも優しくリードしてくれるステップは、まるでダンデさんそのものだ。踊る相手でこんなに個性が出るんだなと驚いた。
「よし、少しレベル上げだ」
曲が盛り上がってきたところで片手が離れ、互いの腕が伸びる。どうすれば良いか戸惑っていると、ダンデさんが言葉で私を導いた。
「安心しろ。オレの動きに身を任せて」
「え、えええっ!」
伸びた腕を引かれると、反動でくるりと腕の中に戻る。
「でき…た?」
なんだかすごい動きをしていた気がする。
「いい感じだ!もう一度!」
「はいっ」
必死になって楽の音に身を委ねる。自然と足の動きと呼吸が揃うと、ターンも流れるように揃っていく。
ぎこちなく、少し遅れがちな不器用なステップ。下手で恥ずかしいけど、ダンデさんは茶化すことなく私に合わせて踊ってくれる。
「ナナ」
名前を呼ばれ顔を上げる。
「キミは自信がないみたいだな。あまり目を合わせないし、俯くことが多い」
図星を突かれ、悟られないように笑おうとしたのに、うまく口角があげられず目を伏せる。指摘されたばかりなのに、また下を向くクセが出てしまった。
「初めて踊るのもあるし、緊張しちゃって…」
そして、きっと怖いんだ。ガラルのスターたちと踊っている自分が見劣りしている気がして。