第15章 マジカルハロウィンナイト
「短時間で随分と上達したな」
「きっとキバナさんが教え上手だからです」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。次の曲も踊っとくか?」
「いえ、この曲だけでお腹いっぱいですっ」
ふふ、と思わず笑みをこぼすと、視線がぶつかった。
「…ようやく笑ったな」
ふと優しげな表情を見せるキバナさんに一瞬見惚れてから、慌てて視線を外す。ちょうどそのタイミングで一曲目のワルツも終わりを迎えた。
「せっかくこれからって時に」
ダンスが止まると、キバナさんは内ポケットからスマホロトムを取り出した。
「踊ってくれた記念に、一緒に1枚いいか?」
気恥ずかしさから遠慮したい気持ちはあったものの、こんなによくしてもらっているのに断るのは失礼だ。
「はい、私でよければ」
「おっ、嬉しいね」
写真撮影を許可したけど、そういえばキバナさんってSNSたくさん更新してたっけ。
どうしよう。自分の顔が世界発信されるのではないかと不安になってきた。
ニコニコ笑顔のキバナさんが、インカメを向けて体を寄せる。なにもかもが近い。頬が強張ってうまく笑えない。
「ん?」
シャッターを切る前に、キバナさんが画面越しにこちらを覗き込む。引き攣った私の笑顔を見て、目つきが柔らかくなった。
「安心しろ。これはSNSにアップしないから」
「そう…なんですか?」
「ああ、だからさっきみたいな笑顔をもう一度見せてくれ」
恐る恐るキバナさんの隣で笑顔を作る。だけど写真はどうしても苦手だ。
「まだ表情が固いな」
「うぅ、やっぱり緊張します」
「強行突破するか」
顔がぐっと寄せられ、動揺して表情が崩れた瞬間をパシャリと撮られる。
「うわ、いま絶対変な顔!」
「ちょっと、いや大分ブレてるな」
画面を確認すると、キランと決まってるキバナさんの横で、私の顔だけ瞬間移動直前みたいにブレッブレになっていた。これにはさすがに吹き出してしまった。
「ぷ…あはははっ!」
その瞬間、シャッター音が鳴る。
「いい顔いただいたぜ」
今度は口を開けてクシャリと笑う私が映っていた。