第15章 マジカルハロウィンナイト
おばけやしきのゴールへとたどり着く条件は、“舞踏会のドレスコードでワルツを踊ること。”
ドレスコードはハロウィンにちなんだ仮装ということで、参加者はサービスで衣装を借りられるらしい。
キバナさんは私の要望を聞きながら、テキパキと衣装を選ぶ。奇抜なデザインより、華やかでかわいいのがいいと伝えると、オレンジと黒のハロウィンカラーのドレスをコーディネートしてくれた。
鏡の前、様変わりした自分を見て胸が浮き立つ。着替えるだけで、まるで本当に舞踏会に招待され、自分がどこぞの国のプリンセスになった気分だ。
フィッティングルームを出て、オニオンくん、キバナさんの元へ向かおうとヒールをカツンと鳴らした時だった。
「そこのキミ!」
はつらつとした声がしてハッと立ち止まる。
「オレと一曲踊ろう!」
声の正体は、ガラルのチャンピオンにしてスーパースター、「無敵のダンデ」だった。彼を包む真紅の燕尾服は、まるで広間そのものを照らす強い灯火のように、鮮烈な存在感を放っている。
ダンデさんは両足を軽く開き、左手の親指・人差し指・中指を立てながら腕をまっすぐ上に伸ばす——通称リザードンポーズを決め込んだ。これには私を含め、周囲の踊っていた人たちも思わず動きを止めて拍手喝采だ。
決めポーズのまま静止した彼は、ゆっくりと私を見据えた。
まさかと思い、自分を指差して聞いてみた。
「………え?もしかして私、ですか?」
ダンデさんは目を合わせたまま頷く。
「ああ、キミを誘ったんだ!」
「な、なぜに?」
不意打ちのダンデさんに狼狽えるあまり、失礼すぎる返事をしてしまった。
だけど、ダンデさんはさわやかな笑顔を崩さない。正真正銘のスーパースターである。
「運営から連絡があったんだ。キミが迷子のナナだろ?」
「ダンデにだけは言われたくないな、それ」
背中からキバナさんの声がする。
振り向けば、後ろ頭に腕を組んで、ひょうひょうとした歩調でこちらへ向かってくるキバナさんの姿があった。その一歩後ろにはオニオンくんもいる。
キバナさんは私のドレス姿を見るやいなや、白い歯を見せてにししと笑った。