第15章 マジカルハロウィンナイト
そんな健気なオニオンくんを、これ以上不安にさせまいと、元気な声で話しかけた。
「よし、そろそろ行こうか。オニオンくんが一緒だからもう怖くないし!」
と言いながらそっと手を離すと、狙いすましたようなタイミングですぐそばにある古井戸の桶がガタガタと揺れた。
「……あのっ、ナナさん……?」
物音だけで、転んでからローリングしてオニオンくんの背中に避難した私を、きっと彼は口先だけの醜く哀れな存在だと思っただろう。いたいけな少年に最悪な印象を植え付けてしまった。でも仕方ない。それが等身大の私なのだから。
「ご、ごめん、もし井戸からなにか出てきてたら、それが去るまで私は動けないし地面しか見ることができない」
「ここは…人感センサーで桶が動くだけなので、もう大丈夫です…」
「…そうなんだ?」
さすが運営スタッフ。担当エリア外の仕掛けも覚えているようだ。
ふぅ、とひと息ついてから、試しに古井戸に向かって手を振ってみる。するとまた、私の手の動きに反応して桶がガタガタと揺れた。
「ほんとだ、オニオンくんの言う通り!」
仕掛けがわかればなんてことはない。だけど、オニオンくんは小首をかしげる。
「…あれ?センサーは…5分置きにしか反応しないはずなのに…」
「ひぅん!?」
変な声を出しながら後退する私の手を、再度オニオンくんが掴んだ。
「や、やっぱり…こうしてますか…?」
「ごめんなさい…お言葉に甘えてもいいですか?」
「はい………フフフ…」
オニオンくんが結んだ手を見てクスクスと笑う。そりゃあおかしいよね、こんなにビビり散らかして奇声を上げるのは私ぐらいだよきっと。と、自己嫌悪に浸っていると、オニオンくんの触覚のようなアホ毛が、ぴょこんと動いているのが目に入った。
かわいくて思わず目が離せなくなる。
「その髪の毛、どうなってるの?」
「あ…これは…なっ、なんでもないです…」
「なんでもないのに動くの?もしかして髪の毛を動かせる特技とか?」
ポケモンの声を聞けたり、物を触らずに動かせたり、不思議な能力を持つ人を見てきたので、オニオンくんもそういう特技があるのかもと思って聞いてみた。