第15章 マジカルハロウィンナイト
「その台詞も、演出…だよね?」
声が震える。オニオンくんはなにも答えない。その沈黙がなにを伝えようとしているのかわからぬまま、空気が淀んで重々しくなるのを感じ、ごくりと喉を鳴らした。
怖い。ものすごく。
オニオンくんのオーラが、まんまゴーストポケモンのそれだ。
オニオンくんは、視線をゆっくりと結んだままの手に移した。
「…手、震えてますね…」
「あ…ごめん!もう平気だから!」
おくびょうな自分が心底恥ずかしい。離そうとすると、華奢な指が手のひらをきゅっと掴んだ。
「こんなに怯えさせてしまって…すいません…」
右手を包み込まれる。
「いやじゃなければ…アナタが、落ち着くまで、その……」
途切れとぎれに、オニオンくんが言葉を紡ぐ。
「…こっ、こうして…いましょうか…?」
探るように、じっと見つめられる。歳下の初対面の子に、こんなに気を遣わせてしまう自分が情けなくなってきた。
「ありがとう、でも大丈夫だよ」
「えっ」
一瞬、言葉を失ったように固まってから、オニオンくんはガックリと項垂れる。
「…そっ、そんな…」
申し訳なくて断ったのに、目に見えて落ち込んでいる。拒絶ではなく、ただの遠慮だったのがうまく伝わっていないようだ。
「あの、嫌なわけではないよ?道案内もしてもらってるのに、これ以上迷惑かけられないからさ」
オニオンくんは下を向いたまま首を振る。
「迷惑じゃ……ないです。ボク……アナタに、怖がってほしくなくて……」
両手で私の手を握りしめ、今にも消え入りそうな声で続ける。
「……幽霊とか…ゴーストタイプのポケモンを…嫌いになってほしくないんです……だから、ボクは……」
どうやら、おばけやしきがきっかけで、ゴーストポケモンに苦手意識を持たれることが嫌だったみたいだ。だから、こんなに私に寄り添ってくれるんだ。
しゅんと俯くオニオンくんを見つめる。
「オニオンくんは、ゴーストポケモンが大好きなんだね」
「はい…」
「怖いとは思っても嫌いにはならないよ。むしろ憧れてる。ゴーストポケモンも、そのトレーナーも」
そう伝えると、仮面の奥の表情が明るくなったのを感じた。オニオンくんの耳の先がほんのり赤くなっている。