第15章 マジカルハロウィンナイト
作り物や演出だとわかっていても、怖いものは怖い。
老いてゆく絵画、壁から飛び出すゴーストポケモン、容赦なく追いかけてくるゾンビ——待ち受けるあらゆる仕掛けに驚かされ、開始から20分程で私の喉は既にカラカラになってしまっていた。
「つぎ叫ぶ時は予告しろよ?」
「予測できないのに予告できるわけないでしょ」
グリーンは仕掛けよりもむしろ私の声に驚いていて、おばけに対する耐性はすっかりついてしまったようだった。
「ビビり大会なら間違いなくお前が優勝だな」
「優勝したいからライヤーさんに大会の提案してみようかな」
掠れ声でそう言いながら、両手でグリーンの腕にしがみつく。細い通路を進むと、前方からランタンの灯りが見えた。
「っ!?」
不意打ちの眩しさに目を細めた後、恐る恐る瞼を開くと、灯りの正体はなんてことない、反射した私たちのランタンだった。
「……鏡?」
通路を抜けた先には、鏡の迷路が待ち構えていた。てっきり、他のお客さんのランタンだと思ったので拍子抜けする。
「さっきからなんで全然人に会わないのかな?あんなに並んでたのにさ」
「入り口にルートが3つあっただろ?そこでうまいこと分散してるんじゃないか?」
人に会えたら気持ちが楽になるのに、巧妙にできているなぁと感心する。この現実に引き戻さない没入感も、きっとこだわりなのだろう。
鏡にぶつからないよう、前を照らしながら慎重に進む。古い遊園地なんかによくある子供向けのシンプルな迷路だけれど、暗闇の鏡ほど不気味なものはない。
「…だめだめだめ、もしあの角からなにか出てきたら絶対無理、出る、声が」
「心構えしてんのに出るのかよ、声」
とぼやいてから、グリーンがランタンで私の顔を照らした。
「そうだな、次から叫ぶごとにペナルティつけるか。1シャウト1服従でどうだ?」
「リタイアします」
「即決かよ!」
「即決じゃない!20分我慢したもん!」
涙目で訴えると、グリーンはやれやれ、とでも言いたげに嘆息した。