第14章 メイ探偵とゴースト
「今ボクは、無意識にキミに触れていた」
「うん…?」
そして急に、分析の嵐が吹き荒れる。
「キミの髪に触れた時、ボクはコイビトごっこを忘れていた。その動機は好奇心?いや、触れる必要はなかったはずだ。生理的欲求?けれどそれは食欲や睡眠欲とは違う。つまりこの不可解な衝動に、ヒトは“コイ”と名付けたのかもしれない。ボクは今、ナナと擬似的な“コイビト”を演じることで、脳が錯覚を起こしている……そういうことなのか?」
「あのっ、N、なに言ってるか全然わからないよ!」
「ボクもこの解がわからないんだ。これはキミ以外にも生じる感覚なのだろうか?そして性別も関係するのか?トモダチにも?」
つらつらと数式を展開していくように、Nは自分の感情を論理で分解していく。私の頭ではとても理解が追いつかない。
また口を開いてなにかを語り出しそうだったので「落ち着いて!」とストップをかけた。
「…すまない」
Nが本気で戸惑っているのが伝わってくる。
「やはり、ボクにはまだ解けない数式だ」
「今はまだ解かなくていいよ。いつかNにそういう人ができたらたくさん考えよう?私でよければ相談に乗るから」
と、無理やりうまいこと話を収束させようとしたのに、
「いや、この感覚は検証が必要だ」
再度髪を撫でてくる。
「Nッ!?」
「そうか、だからグリーンも検証すると言っていたんだね」
「違うと思います!」
「そうだな、ボクがコイビトならなにをしたいかな…」
Nは、私の髪を指先でくるくると弄びながら思案する。
「教えてほしい。ナナは見つめ合う以外になにを求める?」
「だからっ、これで満足だよ…」
「知りたいんだ、トモダチであるキミを、もっと」
私を見下ろしながら、思い詰めた表情でNが懇願する。
「私を…知りたい…?トモダチとして…?」
「うん、この数式を解くにはキミが必要なんだ」
「お願いだ」——Nの声が切なげに胸の中で響く。
頭の奥が霞んできた。さいみんじゅつにかかった感覚ってこんな感じなのだろうか。だけど理性がその先を食い止める。これ以上はダメだ、恋人ごっこの範疇を超えている、と。
——もう終わらせないと。
身体を起こそうとした刹那、空気がざわめき、どこからか不気味な声が聴こえてきた。