第14章 メイ探偵とゴースト
「あのっ、N?」
「すまない、話していてすっかり忘れてたよ。コイビトのフリをするんだったね」
目と鼻の先で視線がぶつかる。エメラルドの瞳が、夜の闇の中一際美しく目に映った。
「どうかな?これでコイビトに見えるかな?」
無邪気な笑顔は、大人びた顔つきには似つかわしくないほど幼く映る。整ったルックスとピュアな内面が織りなすアンバランスな魅力は、容赦なく私を惹きつける。
「ち、近い近い近いですって」
「でもコイビトのフリをするんだろう?」
「そうだけど近すぎッ!」
「それと、ここに壁はないから…」
優しく肩を押され、座っていた噴水のふちに背中を預ける体勢になる。Nが私の顔の横に両手をついて、被さる格好になった。
「この先、さっきグリーンは何をしようとしていた?どんなことをコイビトはするんだい?」
“フリ”の範疇を超えた急接近に、心臓のバクバクが収まらない。
戸惑う私とは対照的に、Nは一切動揺を見せない。ということはつまり、その堂々さは“私をなにも意識していない”という態度の表れであり、Nはただ、言われた通りに表面的な恋人ごっこをしているだけなんだろう。
「こ、恋人は、こうやって見つめ合うだけで幸せなんだよ。私の場合はだけど」
この気まずい空気を取り繕うようにぎこちなく笑う。なにかを誤魔化すとき、私って笑うクセがあるようだ。
けれど、Nは不服そうに眉をひそめる。
「いや、グリーンはこうやって顔を寄せていた」
「ッ!?」
顔が近すぎて息が止まる。帽子がぶつからなかったら、あってはならない事態が起きていたかもしれない。
「この続きは?彼はキミの理性を検証すると言っていたよね」