第14章 メイ探偵とゴースト
ずずいっとNが私の顔を覗き込む。身長差があるせいで、斜めに首を傾けたその視線が妙に色っぽい。
「グリーンはキミを責めることに、本能的な悦びを見出しているように見えた。コイビトであれば、双方がそれを合意するべきだ」
「ひいいい…!」
本能とか合意とか、直球すぎる単語ばかりで顔がヒヒダルマだ。思わずNから顔を背けた。
「キミ、教えてくれ。コイビトとして、あの時の行為は喜んでいたのか?」
「もちろん困ってました!」
「拒みながらも顔が赤くなっていたのは?」
「恥ずかしいからです!」
「なら合意ではなかったんだね」
「当たり前! 合意なんかしてない!…——けど」
言葉が喉の奥でつっかえる。自分でも、「けど」の先をどう伝えればいいのか分からなかった。
「どうした、ナナ?辛くて話せないのか?」
きれいな瞳が心配そうに私を見つめてくる。その視線に耐えきれず、手のひらで顔を隠した。
「いま、心の準備中」
「わかった」
短いやり取りのあと、夜の静けさがふたりのあいだに戻る。背後の噴水が流れる音に耳をすませながら、ゆっくりと息を整え、そっと手を膝の上に戻した。
こんなこと人に話すことなのかな。そう思いながらも、胸の奥に溜まった息をゆっくりと吐き出す。
「…グリーンだから」
膝の上、きゅっと拳を握り締める。
「グリーンが好きだから、いいの。恥ずかしくても、いつも私を気にかけてくれるし、求めてくれるから…」
「それはコイしてるから?」
「うん」
照れくさくて、少しだけ笑ってみせる。すると、Nも口元を優しげに緩ませた。