第14章 メイ探偵とゴースト
恋とはどんなものなのか。
きっと、人の数だけ形があって、決まった正解なんてないのかもしれない。
「これはあくまでも私の感覚だからね」
と、前置きしてから伝える。
「恋するとね、その相手のことを考えるだけで嬉しくなったり辛くなってね、胸が苦しくなって、その人のことばかり考えるようになるの。でも、そんなふうに悩む時間さえも楽しくて、『ああ、自分はいま恋してるんだな』って思うんだ」
「喜びと苦しみ、相反する感情に振り回され、そしてそれに快楽を見出す……やめたいのにやめられない、自制心でどうにかなるものでもない、まるで中毒症状だ」
「そのとおり!“恋の病”ってよくいうしね」
「そんなに苦しんで、相手になにを求める?」
「もっと会いたいとか、話したいとか……隣にいたいって思う」
Nは私の答えにかぶりを振った。
「ボクにはトモダチとの違いがわからない」
なんだか私もわからなくなってきた。
恋と友情の違いにおいて、決定的な要素を考えてみる。
思い浮かぶのは、恋にだけつきまとうネガティブな感情だった。
「違うのは……独占欲とか嫉妬かな」
「独占欲と嫉妬?」
「自分より他の人と仲良さそうだとヤキモチ焼くし、自分のことをいちばん好きでいてほしいって思う」
最後に小さめな声で「私の場合だけど」と付け加えておいた。
「それも、ヒトによってはトモダチに対して抱く感情なんじゃないか?」
「う…ん、そうかも」
Nの返しが難しくて言葉に詰まる。それなら最も違うことといったら、もうあれしか思いつかない。
「なら……友達とのいちばんの違いは…スキンシップ…かなぁ?」
「そうか……それなら、さっきグリーンに壁際に追い詰められていたのもスキンシップの一種なんだね?」
逃げたくなる気持ちを堪え、Nの問いに向き合う。
「まぁ、そうだね……あれは付き合ってるからこそだと…思う」
Nは目を閉じて帽子のツバを掴むと、また考え込む。すると突然、思いついたようにパッと目を見開いた。
「なるほど。つまり、相手への本能的な欲望に名前をつけたら“コイ”になるわけか」
核心をついたような返答に思わずドキリとする。
「ロマンもなにもないけど、本質はそうなのかもね」
「なら、まだ聞きたいことがある」