第14章 メイ探偵とゴースト
親切心を押し付けず、相手のために親身になって寄り添う。なんて優しい人なんだろう。
「ありがとう」
「フッ、気にするな。元はと言えば、オレが駆けつけるのが遅かったせいだしな」
それに加えて律儀。人間捨てたもんじゃないなと心底思う。
巧みな針さばきに身を任せ、じっと動かないでいると、グラジオくんが視線を上げた。
「さっきから表情が固いな。針が怖いのか?」
「ううん、上手だなって見てた」
「裁縫は慣れてるんだ。任せな」
歳下に見えるけど、面倒見が良くて優しくて、明らかに精神年齢は私より上だろう。
しばらく綻びを往復する針を観察していると、不意に針の動きが止まった。
「…グリーンとは幼馴染と聞いていたが、恋人だったんだな」
さっきの出来事を思い出し、一瞬で顔が熱くなる。
「う、ん…恥ずかしいから、あんまりみんなには言ってないんだけどね」
「恋…か。恋ってあんなに理性を失って夢中になるもんなのか?」
「ひ、人によるんじゃないかな…」
思いがけない質問に、どんどん羞恥心が増していく。一刻も早くグラジオくんの記憶から消えてほしい。
「オレも、もし恋をしたらあんな風になっちまうのか」
「ああはならないと思うけどね」
「……まぁ、今のところは必要としてないし、言ったところで机上の空論だな」
グラジオくんは少し笑って、小さく首を振る。そしてまた、縫い針を服に通した。