第13章 帽子のトレーナー
ライヤーさんの発想は止まることなく広がっていく。
「せっかく移動式遊園地を呼ぶのであれば、フードもオリジナルメニューを考えたいな。飲食が高いから安くしろという意見も出ているのだ」
「たしかに、パシオのごはんは美味しいけれど決して安くはないですね」
THE・庶民として食事が安くなるのであればこんなに嬉しいことはない。遠慮せず意見に便乗させてもらった。
ライヤーさんは顎に手を添えて考え込む。
「やはりな……原材料の高騰、素材へのこだわりでどうしてもコストがかかってしまってな。しかし、民に喜んでもらうためには庶民のナナ、安くて美味しいフードといったら何が思い浮かぶ?」
いちいち呼ぶ時に「庶民」をつける必要があるのだろうか。と思いつつ、遊園地で食べたいものを頭に思い描いてみる。
「私の発想力だと、安いポテトとかクレープみたいなありきたりなメニューしか思いつかないですね。この間お祭りで食べたマラサダは美味しかったけど、あれはアローラ名物として既にパシオでも定着しているし…」
「なら、パシオ独自の味を作るのはどうかな?異なる文化の融合で、新しい世界をつくるんだ」
難しい言い回しだけど、要するにパシオ限定フレーバーのマラサダってことだよね。
Nの提案に、ライヤーさんは感嘆の声を上げる。
「名案だ!それならすぐに実現できそうだな!パシオオリジナルの世界一美味いフレーバーを開発しようではないか!」
「すごいねN!言ったこと全部採用されちゃった」
「マラサダはナナの着想をヒントにしたんだ。ボクたちふたりの思いが届いたんだね」
すべては自分の提案なのに、素直に感謝と共感を伝えるNってやっぱり純粋で優しい。
「なんか私、大したこと言ってないけど役に立てたのならよかった」