第12章 ※熱帯夜
「うそ、怒って……んっ」
うるさいから、キスで口を塞ぐ。何度も甘く唇に吸い付けば、すぐにナナはとろんとした目つきでオレを受け入れる。
甘く誘い込むように油断させ、戻れないとこまで堕とす。そんなオレの罠に毎回引っかかるナナに、愛しさと共に歪んだ感情が芽生える。その危うさがオレに火をつける。
そのまま深く吸い寄せるように、唇の隙間をこじ開けて舌を差し入れる。キスの最中も、暗がりで寄り添うふたりの姿がまぶたの裏に浮かんで煩わしい。
「くるしぃ…ぐりー、ん…っ」
逃げ道をふさぐように頭を抱え込み、唇を重ねる。舌先で口内をゆっくりと探るようになぞり、ナナの舌を見つけると、やわらかく絡め取る。
「ん…んっ…はぁ…ん…」
ナナの瞳がとろけていく。甘えと余裕のなさを孕んだ、オレを惑わす息づかい。もっと欲しいんだろ?応えるようにさらに深く、激しく舌を絡ませる。
いつもは行為に没頭できるのに、ナナを求めれば求めるほどあの光景が頭をよぎる。
ナナの行方を告げた時のリーフの気まずそうな顔、何度かけても繋がらない電話、また何かに巻き込まれてるんじゃないかと焦りと不安の中探し回り、見つけたのはオレの心配を裏切るような、人気のない場所で過ごすふたりの姿だった。
イヤな予感がチラついて、目の前のナナに集中できない。
ああイラつく。この声も、唇も、ぜんぶオレだけのものなのに。
だけどもし、あの時シルバーと何かあったら?
嘘が下手なナナが妙にはぐらかすのも気になっている。
オレ様相手にいい度胸してるじゃねぇか。
奪えるもんなら奪ってみろ。
オレのことしか考えられないぐらい、こいつを夢中にしてやるから。