第11章 お祭り騒動
「ナナちゃん、お願いがあるの」
「なぁに?」
「もしこの先、レッドと何かあったら、その時は逃げずに気持ちに向き合ってあげて」
「逃げずに向き合う?」
「優しいのと逃げるのは違うでしょ?ナナちゃんの気持ちをちゃんと伝えてあげてほしいの。レッドだけじゃなくグリーンのためにも」
驚き固まる私を見て、リーフちゃんが真面目な顔を崩して笑い始める。
そんなに私の反応が変だったのかと恥ずかしくなり目を伏せると、「ごめんごめん」と言いながら肩をポンポンされた。
「そんな難しく考えないでっ。ナナちゃんが自分の気持ちに正直になるのがいちばん大事ってことだから。それに——」
と言ってから、周りに誰もいないのに耳元に手を添えてコソコソと伝えてくる。
「グリーン、顔には出さないけど、ナナちゃんがモテモテだから焦ってると思う」
あのオレ様なグリーンが?そして私がモテモテって…。
「ないない、ありえない。それにグリーンこそ、さっききれいな人たちに囲まれてたし!」
「ああいう軽いのとは違うのよね〜」
リーフちゃんは、口元に手を添えて含みのある笑みを浮かべながら、ぴょんとベンチから立ち上がった。
「で、話途中でごめんね、トイレ行ってくるからポケモンたちお願い」
「あ、うん…いってらっしゃい」
気になる台詞を残し、リーフちゃんは行ってしまった。
ポケモンたちは、夜風を浴びながらのんびりと過ごしている。小柄なサンダースが、リザードンたちに怯えずに仲良くしている様子がなんだか微笑ましかった。
(レッドが私を…ほんとかな…)
ひとりになったら、どうしたってさっきの話を考えてしまう。
思い返せば、さっきレッドと話していたらグリーンに誘われたんだっけ。だからリーフちゃんは、機転を効かせて別行動にしてくれたんだ。
そうだ。きずなの大会も、はじめはレッドが私と組もうとしていたと聞いた。
その全ては、レッドの優しさだと思っていた。
なにも考えずにそう思い込んで甘えていた。
正直に伝えるって言ったって、どう切り出せばいいんだろう。
いくら悩んでも堂々巡り。簡単に答えは見つからない。
深いため息をつき項垂れると、視界の端に誰かの靴が映り込んだ。