第10章 親子のカタチ
戦況はやはり数が少ないゲーチスが不利なようで、ロケット団の猛攻にどんどん追い詰められていく。
「トモダチが…ヒトの欲に操られ、憎しみあっている…」
「N…?」
Nは悲痛な顔つきで胸を押さえた。
「聞こえるんだ…トモダチの怒り、憎悪、痛み……人間の私利私欲のために、互いを傷つけ合い、犠牲に…」
劣勢だったブレイク団は追い詰められ、ついにはゼクロムを捕らえているスリーパーのみになった。
「役立たずどもが…」
「さぁ、ゼクロムとキュレムを渡してもらおうか」
八方塞がりになったゲーチスは、周囲を見渡してもなお、絶望的な状況を認めたくないようだった。じりじりと後退し、ついには洞窟の岩肌まで追い込まれる。
「ボクは、こんな世界を望んでいない……!」
深いエメラルドが、鈍い輝きを放った瞬間、
「今だNッ!」
シルバーくんが言葉を発したのと同時に、回復して元気を取り戻したホウオウが、混乱に乗じてスリーパーに攻撃をした。
「しまった!?」
「おいでゼクロム!」
スリーパーの術が解け、ゼクロムはNの元へと戻る。
「よかった…」
Nはホッとした表情でそっとゼクロムを撫でてから、サカキとミュウツーを睨み据えた。
「ゼクロム!」
Nがゼクロムの名を高らかに叫ぶと、ゼクロムはNの意志を汲み取ったかのようにミュウツーへ攻撃をした。尻尾で強力な電気を生み出し、激しいらいげきでミュウツーにダメージを与える。
「何してる!そんなヤツほっておけ!」
「N、今のうちにはやく逃げないと!」
Nは逃げずに共闘を選んだ。なぜゲーチスを助けるのか、私は瞬時には理解できなかった。それはゲーチスも同じだったようで、Nに問いかける。
「なんのつもりです?N」
「ボクはキュレムを救いたい。そのためにも、ロケット団に渡すわけにはいかない」
Nの目にもう迷いはない。
「だから今は…キュレムのためにボクは闘う!協力してください!ゲーチス!」
「……いいでしょう!ワタクシにとっても都合がいい!」
皮肉な運命が親子を繋ぐ。たとえそれが偽りのきずなでも、キュレムを守りたいという思いは同じだった。