第10章 親子のカタチ
「しかし、お前さんも変わったな」
ぽつりとアデクさんが言った。
「昔のお前さんなら、なんの迷いもなく自分の道を決めただろう。当時のわしを超えた時のように」
「……ボクは、弱くなったのかな」
(弱いわけない!優しいからだもん!)
今度は私が文句を言う。冷たい視線を横に感じながら。
(次また泣いたら置いてくからな)
(泣きません)
「いいや、お前さんは人になったのだ」
アデクさんの言葉に、ハッとして前を向く。Nも驚いたように顔を上げた。
「ヒトに…ボクが…」
「そうだ。人ゆえに悩み、迷い、立ち止まる。その不完全さもまた人である証」
戸惑うNに向かい、アデクさんはニッコリと笑顔を向けた。
「わしは昔より、苦しみもがきながらも乗り越えようとする、今のお前さんに親しみを感じとるよ」
「ボクが、ヒト…バケモノと呼ばれた…この、ボクが……」
Nは、うわごとのようにアデクさんの言葉を反芻してから、澄み渡った星空にも負けないくらいの笑顔になった。
「アリガトウ…!嬉しいです、とても…!」
さらにNは言葉を紡ぐ。
「もしボクがヒトになれたのだとしたら、アデクさんやトウヤ、イッシュのみんな……そして、パシオで会ったトモダチのおかげです。みんながボクに世界を教えてくれたから」
その言葉を受けて、アデクさんは顎髭を手でなぞりながら豪快に笑った。
「今のお前さんには仲間がおる!安心して信じた道を突き進みなさい」
「はい、決心がつきました」
ようやくNが笑顔を取り戻したのを確認できて、つられて私も笑顔になる。隣のシルバーくんも、安心したように小さく息をついた。
(ひとまず、吹っ切れたみたいだな)
(うん…帰ろっか)
よかった。N…。
安心と嬉しさが同時に押し寄せ、目頭が熱くなる。
シルバーくんに顔を見られないよう、コソコソと茂みから出ようとすると、背後から肩を叩かれた。