第10章 親子のカタチ
Nが気がかりで気持ちが晴れぬまま、シルバーくんと特訓を終えて夜道を帰っていると、海岸のはずれで誰かと話しているNを見つけた。
ひとりでゲーチスの元へ向かったんじゃないかと心配していたので、ホッと胸を撫で下ろす。
「えぬ——むぐっ!?」
声をかけようとした瞬間、シルバーくんに手で口を塞がれ、そのままずるずるとNの死角にある茂みへと連れて行かれる。
(おい、頼むから少しは空気を読め…!)
(ゴメン…)
しゃがんで息を潜めながら、Nの様子をうかがう。隣にいる人が誰かわかるかシルバーくんに尋ねると、イッシュの元チャンピオンであるアデクさんだと教えてくれた。
盗み聞きに若干の罪悪感を抱きつつ、会話に耳を傾ける。
「——…お前さんには悪いが正直に言おう。きっと罠だ。それほど、ゲーチスは邪悪な男だ」
Nは何も答えない。
「だが、わしにもヤンチャ坊主のバンジロウという孫がおる。もしあやつが悪の道に進んだとして、信じてくれと言われれば、わしもお前さんと同じように悩むだろう」
アデクさんは、Nとゲーチスの関係性をよく知っているらしい。言葉の一つひとつに芯があり、強い説得力を感じる。
「理屈ではなく、心で繋がる、それが家族というものだ。どんな悪逆非道な者とて、お前さんにとってゲーチスは家族であり、たったひとりの父親なんだろう」
「家族…父親…」
(…綺麗事言いやがって。苦労するのはいつもこっちなのに)
それまで黙っていたシルバーくんが文句を言っている。
サカキを父に持つシルバーくんも、きっと相当苦労したんだろう。だからこそ、シルバーくんもNをほっておけないんだ。