第10章 親子のカタチ
「血の繋がりはありませんし、親と呼ばれるようなできた男でもありません。ですがもし、この新天地でやり直すことができるなら——」
ゲーチスは、杖を持っていない方の手をNへと差し伸べる。
「N……ワタクシと本当の親子になってくれませんか?」
「っ!?」
Nは、驚愕の色を顔に浮かべて目を逸らす。そして、静かに突き放した。
「……帰ってください。今、その答えを返すことはできません」
声が微かに震えている。言葉とは裏腹に、動揺が滲み出ている。必死に感情を押さえ込むように拳を握りしめ、消え入りそうな声で続けた。
「…何もせず、大人しくしているというのであれば、今回は見逃します。だから…ボクの前から姿を消してほしい」
Nの言葉を受けて、ゲーチスはゆっくりと頷く。
「わかりました。虫の良すぎる話でしたね…」
そう呟くと、キュレムをボールに戻し、再びNへと向き直った。
「ですが、N、ワタクシはずっと待っています。いつかまた、あなたと父と子として暮らせる日々を……」
「では」と最後に付け加え、ゲーチスは森の中へと去ってゆく。
Nは、父親と名乗った男の背中を、見えなくなるまで目で追っていた。