第10章 親子のカタチ
「見つけたからには、あなたを野放しにはできない。パシオで悪事はさせません!」
毅然とした態度でNが言い放つ。けれど、返ってきた答えは意外なものだった。
「警戒されるのも無理はありません。以前、ワタクシは力を欲し、イッシュに混乱をもたらしたすべての元凶……実に愚かで浅ましいことをしたのですから…」
ゲーチスは目を閉じて、罪を認めながら後悔を吐露する。品のある佇まいが余計に不気味さを増長させる。
「ですがもう、悪事を働く気はありません。心を入れ替え、一介のトレーナーとして慎ましく過ごすと決めたのです」
淡々としていながら、そこ知れぬ威圧感を放つ声。
見え透いた罠だ。
けれど、Nはゲーチスの言葉に過剰に反応する。
「そんな…嘘です!嘘に決まってる!」
「嘘ではありません。多くの犠牲を払い、自分の愚かさに気づいたのです。野望は潰え、ワタクシにはもう何もない………いや——」
と言って、まるで劇の演出のような台詞回しと共に、ポケモンをボールから呼び出した。ゲーチスの隣に、巨大なポケモンが現れる。
「——唯一残されたこのキュレムと共に、静かに余生を暮らす。それがワタクシのたったひとつの望みです…」
Nは何も言わずにゲーチスのポケモンを見据える。もしかしたら、ポケモンの声を聞いて真意を確かめているのかもしれない。
しばしの沈黙の後、Nは帽子を目深に被り、俯いてしまった。
第三者から見れば嘘をついているとしか思えない。けれど、Nは明らかに動揺している。
余計なお世話かもしれないし、正直怖すぎる。絶対に関わりたくない種類の人間だ。だけど、Nを守りたい。
Nに伝えよう。これは罠だ、信じてはダメだ、と。
震える拳を握りしめ、口を開きかけた刹那、
「信じてほしい…我が息子よ…」
「「息子っ!?」」
あまりにも衝撃的な発言に、私とシルバーくんは声を揃えて狼狽えた。