第10章 親子のカタチ
「ゲーチスの名を聞いて、ボクはまた昔のように偏った思考に戻りかけていたのかもしれない。鳥籠の中、狭い世界の王となり、全てを知ったつもりでいたあの頃のように…」
Nは自身を責め始める。だけど、幼少の頃から植え付けられた価値観なんて簡単には消せないし、完全に0にすることは難しいだろう。
目の前で感情を露わにするNが、私にはとても繊細で危うく見える。
この人は脆く、気高く、そして美しい。
達観して大人びて見える一面と、子供のようにあどけない一面を併せ持つNこそ、複雑で難解なこの世界のようだ。
胸の中に芽生える感情にうまく名前をつけられないけれど、この人を守らなければと強く強く思った。
「大丈夫だよN」
まっすぐNの瞳を見つめる。
「今のNは世界の広さ、複雑さを知っている。それに、トウヤさんというかけがえのない友達がいる。もちろん私とシルバーだって。それだけで、プラズマ団の王だった頃とは全然違う」
「ナナ…!」
Nの手に力がこもる。吸い込まれるような瞳で見つめられ、緊張とは裏腹になぜだか目を逸らすことができない。
「キミの言葉はあたたかい。まるで、光に触れたような気持ちだ」
Nは、ほんの一瞬切なげな表情を見せると、そっとまぶたを伏せて俯いた。
「さっきはすまない、取り乱してしまって」
「い、いえ、気持ちが落ち着いたみたいでよかった。私でよければいつでも話聞くので」
そう告げただけなのに、Nは嬉しさを噛み締めるように、儚げに微笑む。
「うん、キミとはまた話したい」
「私も!…で、そろそろ手を」
「ああ、ゴメン」
パッと手が離される。と、その手をジッと見つめて考え込んでいる。
まだ話し足りないのかな?と思ったけど、シルバーくんの様子も気になる。
「ここら辺は捜索したし、シルバーくんに連絡して合流しよう」
「そうだね」
Nは顔を上げると、不意に前方を見据えたまま固まった。