第3章 Ever green!②
「おいおい言っただろ?優勝までおあずけって」
「違うっ!そんなつもりじゃっ!」
こっちは命の危険を感じてときめいている場合じゃない。
グリーンはこのスピードに慣れっこなのか、涼しい顔でピジョットが生み出す軌道に身体を預け風を切り裂いてゆく。
お腹がふわっと浮く感覚に背筋が凍りつき、恥じらいも捨て、グリーンの背中を強く抱きしめた。
恐る恐るうっすら目を開けると、眼下に聳え立つ岩山が視界に広がる。
ゴツゴツした岩山の隙間に、洞窟の入り口を発見して声を上げた。
「グリーン!見て!」
「もう着いたか。さすがオレの相棒!」
そう言いながら、グリーンはなおもスピードを落とさない。
「ねえ!通り過ぎちゃうよ!」
「じゃあもう一周するか」
「する訳ないでしょ!急いでるのに!」
なにが「じゃあ」なのか。
「お願い早く降ろして!怖い!」
背中越しにグリーンの横顔を見ると、うっすら笑みを浮かべている。
「聞いてる?グリーンっ!」
返事の代わりに、グリーンは指を鳴らしてピジョットに何かの合図を送った。
すると、ピジョットは山肌に沿って上昇し、洞窟へ向かい急降下した。
「ぎゃあああ!!」
私の悲鳴が再度上空に響き渡る。
身体に強烈なGがかかり、魂が分離してしまいそうだ。
もうダメだ。あまりの恐怖に気が遠くなってきた。
手の力が抜けてくる。
グリーンは意地悪だ。
こんなに嫌がっているのに。絶叫系苦手なのに。
耳をつんざく轟音の中、意識が薄れて手が離れかけると、強い力で抱き寄せられた。