第9章 ※チームメイト
するとなぜか、Nさんの表情に翳りが差した。
「キミが不審がるのも無理はない。当時のボクは歪んだ思想に傾倒し、たくさんの人を巻き込み、迷惑をかけたからね」
誤解させてしまい、慌ててぶんぶんと首を振って全否定する。
「いえ!いえいえ!そういうことじゃなく!むしろそんなすごい人が同じチームだってことに驚いちゃって」
恥ずかしいけど、Nさんが子供時代を話してくれたんだから、私も正直に話そう。
「……私は、カントーのポケモンリーグ目指したけど、最後のジムで挫折して、チャンピオンに挑むどころか四天王とすら戦えていないし…。実力差がありすぎて申し訳なくなっちゃって」
「トキワジムか。グリーンのヤツ、パシオでは甘やかしてんのに、ジムリーダーとしてはちゃんと仕事してるんだな」
シルバーくんの“甘やかして”は一旦置いておいて…。
「惨敗だったよ、毎回ね。トキワジムってちょっと特殊でさ、グリーンの前のジムリーダーはほとんど不在だったんだよね。そもそも、7つ集められるトレーナーが全然いなかったのも理由かもだけど」
そう言うと、シルバーくんが一瞬険しい顔をした。
レッドとグリーンがバッジを貰った後、ジムリーダーはトキワジムから去り、その後継としてグリーンが選ばれたと聞いている。
「トキワシティは近所だからよく遊びに行ってたけど、結局グリーンの前のジムリーダーは一度も見なかったなぁ。前任の人もすごく強かったみたいなんだけど、正体はロケット団の——」
「レッドに負けて逃げ出したからだろ」
「——ボスだったって……え?」
自分の声の隙間に割り込んでくるように聞こえてきたシルバーくんの言葉に、虚を突かれて、きょとんと顔を上げた。
「弱いヤツらを集めてでかい組織を作って、その結果、たったひとりの子供に壊滅させられて逃げたんだ。ロケット団もジムリーダーも」
いつものように淡々と話すシルバーくん。けど、この時だけは、なぜか感情を押し殺しているように見えた。