第6章 予選、野望、そして仲間
「使えよ」
「いいの?」
「あいつらが落としていった」
そんな落とし物あったっけ?と思ったけれど、まずはサンダースを回復してあげないとだ。礼を言って急いで傷口にスプレーする。
元気になったサンダースは起き上がると、男の子にお礼を伝えたいのか、恐る恐る近づいてゆく。気配に気がついた男の子は振り返り、足元で佇むサンダースをじっと見つめた。
「けど、意外だったな」
「意外って?」
「ポケモン置いて逃げれば済む話なのに、あんた、ひとりで戦ってたから」
そう言ってほんの少しだけ口角を上げる。
「弱いくせに」と付け加えられ、少しムッとする。
「そうです!弱いから特訓してたの」
言い返すと、一瞬男の子と目が合い、すぐに逸らされた。
(きれいな色の瞳…)
海の底と宵闇が溶け合ったような紫紺の瞳は、他人を寄せつけぬオーラを纏い、つり上がった目尻と、硬く結ばれた唇が、誰の言葉も届かない殻のように思えた。
「弱くたって逃げるわけない。サンダースは私のはじめてのポケモンで、ずっと旅を続けた大切なバディだもん」
そう告げたタイミングで、張りつめた糸が切れるように、足元から力が抜けた。思わずそのまま地面に座り込んでしまう。
驚いた顔で男の子がこちらを向く。
「おい!怪我してんのか?」
「ううん。安心したら力が抜けちゃっただけ。本当はすごく怖かった…この子を失うんじゃないかって…」
震える肩を必死に抱えるように、両手で押さえた。
「なら、せいぜいホウオウに感謝するんだな」
男の子は、舌打ちしながらもこちらへ手を差し伸べてくれた。
「ありがとう」
手を掴んで立ち上がると、結んだ手はすぐにパッと離される。男の子は軽く息をつき、また目を逸らした。
男の子は無愛想だけど、言葉や行動の端々に隠しきれない優しさが滲み出ている。ホウオウが男の子を選んだのも、きっと、彼の心の中に宿る光を見つけたからだ。
もし、来てくれていなかったら、今頃私とサンダースはどうなっていたんだろう。考えるだけで胸の奥に恐怖が広がった。