第3章 私の大切な継子の話
「…私は…やっと終われると思ったのに!!」
そう言って殴りかかってきた少女の腕の力に目を見開いた。
「…っ…。(肋が……。折れた。)」
「この子が終わらしてくれたのに!!」
自分の身体は常人よりも随分と頑丈な筈なのに、力任せの少女の拳で恐らく2本、肋が折れた。
「何も知らない癖に自分の正義で物を言うな!!」
火事場の馬鹿力にしても強すぎる小さな拳に驚愕しつつも、必死すぎる様子に気を奪われた。
「(……この娘は、死にたかったのか。)」
なぜ、こんなにも死にたがるのか。この少女をここまで追い詰めた理由はなんなのか。真意は分からぬが、それが穏やかでは無いことは明確だろう。
「離せっ!私に触れるなっ!!!化け物だって腹が減るだろ!それなら私を喰えば良かったんだ!!普通の事だろうっ、その糧に私がなれる筈だったのに。」
「(この娘は鬼もその他の生き物と平等だとそういうのか…。)」
暴れるのを止めようと腕の中にしまい込むと、唐突に力が抜けしゃくり上げる様な声を上げた。
「………う……っ。」
「(世の中は随分不条理なものだな…。)」
死にたいとそう言った少女は『鬼でもいいから糧になりたい』と自分の命さえも他の為にとそう考える人間らしい。
そんな心根の優しい少女が、何故こんなにも苦しそうに泣きじゃくらなくてはならないのか。そんな世の理不尽さに何も言えず、私は降り止まない小雨の中で小さな身体がせめて風邪を引かぬよう温め続けた。