第2章 私が貴方を好きになる迄の話。
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そんな情けなさを感じた夕暮れを過ぎて
夜も深まった頃。
私はコソコソと屋敷を抜け出す玄弥君を見つけた。
「…こんな時間に、どこ行くんだろう。」
大きな背を屈めてソロソロ歩く後ろ姿が
泥棒の様で面白く思った私はこっそり後を付けた。
「………っ…はぁ…っ…はぁ…っ…。」
いつも鍛錬をしている練習場。
玄弥君は1人で息を切らして剣を降っていた。
いくら出来が悪くても
玄弥君に対する鍛錬を怠ったつもりは全く無い。
身体もキツい筈なのに彼は1人でもずっと、
下手くそな素振りを繰り返していた。
「(………だから、隈があったのか。)」
ずっとある彼の隈の原因はコレだったんだ。
私にも悲鳴嶼さんにも何も言わずに
ずっとこうやって夜な夜な鍛錬をしていたんだ。
私はこの時に、やっと彼の諦めの悪さを知った。
「……っ……痛っ…てぇ…。」
フラフラしているのに無理に身体を動かすから、
膝から崩れ落ちて何とか立ち上がる。
「(…髪が、黒い馬の鬣みたい…。)」
誰もいない所に剣を構える彼の髪は
馬の鬣の様にゆらゆらと揺れていて
月夜がやたらと良く似合った。
「玄弥君……何してるの?」
「………!!」
いつまでも覗いているのも忍びないと
私が木の影から出て声をかけると
彼は慌てて刀を自分の背に隠した。
「あ、いや…。何でもねぇ!!!」
あまりにも下手くそな誤魔化し方だ。
背に隠した刀の先は頭の横から見えているし、
服が濡れるほど汗をかいていて足も震えている。