第5章 初めてのお客様
「そんなに難しいことはないと思うけど…大丈夫そう?」
「はい、大丈夫だと思います」
ボタンを押すだけの機械であったが、熱湯が出てくるので慎重に入れていく。それを見て野々村も大丈夫そうだと四季を見た。
「うん、大丈夫そうだね~。じゃあ、七瀬くんに持って行ってあげて」
「分かりました」
トレーに乗せて飲み物を運ぶ行為に慣れておらず、四季は両手でトレーを支え、慎重に運んでいった。七瀬の前まで行くが、テーブルの上にカップを置くには片手をトレーから離さなければいけない。どうにも上手く持てず悩んでいると、座っていたはずの七瀬がすっと立ち上がった。
「焦らないで大丈夫だよ。聞き手は右?」
「はい」
咄嗟に真横に来た七瀬に驚いたが四季はすぐに返事をした。
「じゃあ…まず右手はまだしっかりトレーを持ったまま、左手をトレーの下に持って行って…手のひらを広げてみて」
「えっと…こうですか?」
「そう。ゆっくり右手の力を抜いてみて…グラグラしそうなら、左手の位置を調整してみて」
七瀬に説明されたとおり、右手の力を抜いてみたが、あまりバランスが良くないのか安定しない。
「ちょっと、左手の位置を…右かな」
そう言いながら、七瀬は自分の手を四季の左手に添え、位置を調整してくれた。
「!!」
突然の接触に驚いた四季は持っていたものを落としそうになったが、それが熱湯であることを思い出し、寸でのところで留まった。
しっかりと安定したトレーからコーヒーカップを取り、七瀬が先程まで座っていた席のテーブルへと置いた。
「お…お待たせしました…」
「ありがとう(ニッコリ)」
「い、いえ…教えてもらって助かりました…」
ひんやりとしたトレーを持っているはずなのに四季は左手が熱く感じていた。