第5章 初めてのお客様
「あら?もう知り合いだったの?」
七瀬の名を呼んだ四季に気づき、野々村は尋ねた。
「えぇ、昨日うちのカフェに来てくれて。…昨日はありがとうね」
にこやかに四季にそう言うと、四季は焦って首を横に振った。
「い、いえ!」
多少赤みを帯びた四季の耳元に気づき、吉井が七瀬と四季の間に入り込んだ。
「ちょっと、せっかくのうちの新人に手出さないでもらえる?」
「…だから、吉井さん僕をどんな風に見てるんですか」
クルリと吉井は四季の方を振り返り
「駄目だよ四季ちゃん、こんな奴の毒牙にかかっちゃ!」
「そんな、七瀬先輩は凄くいい人で…」
「そんな~…既に毒牙にかかってるなんて!」
大袈裟に落胆を表し、顔を覆った吉井に七瀬は小さく笑った。
「…酷いなぁ」
そんなやり取りを目の前で見ていた四季はどうしたらいいのか分からず、キョロキョロしながら狼狽えていた。
「(クスクス)…吉井さん、四季くんが戸惑ってますよ」
そんな四季に気づき、七瀬は吉井に注意した。
「くそー……ごめんね?四季ちゃん」
「だ、大丈夫です」
驚いたのは確かであったが、謝られるほどの事でもなく、四季は笑って返事をした。二人用のテーブル席に七瀬は座り、吉井は立っていたのだが、近くのカウンター席に座った。
「…にしても七瀬は本当によくこの店に来てるけどなんでなんだ?」
その言葉から頻繁に七瀬がこのカフェに来ていることが分かり、四季は少し嬉しく感じた。
「コーヒーが好きなんですけどね…あまりないんですよ、ゆっくり飲める場所が」
そう言った七瀬の言葉に四季は不思議そうに首を傾げた。
「あれ、男子寮のカフェだと駄目なんですか?」
「うーん…あそこはお客さんの出入りも激しくて、ゆっくりは難しいんだ」
「……ここには客が来てないって嫌味にも聞こえるぞ」
話を聞いていた吉井が七瀬をにこやかに睨んでいるのを見て四季は自分が失言をしてしまったのかとヒヤヒヤした。
「…僕は吉井さんに嫌われてるんですかね?」
「そうだな」
「はい喧嘩はやめー。関谷ちゃん、七瀬くんと知り合いなら練習にはちょうどいいし、コーヒー一緒に作りましょう」