第43章 はじめまして
3人の会話を、側からぼんやりと耳に入れる。
彼女は…数日前にボクと交わした口付けを、覚えているのだろうか。
あまりにも普段通りのエリを見ていると、あれはボクの夢だったのでは?と勘ぐってしまう。
「でも、不味くはないでしょ。エノキとポン酢なんだから」
そう言って、ボクは彼女に向かって口を開く。
少し驚いたように、エリは瞳を揺らした。
楽と龍も、こちらを見て固まっている。まさか、ボクが “ あーん ” を誰かにねだるなど、あり得ないと思っているのだろう。
「早くしてくれない?待ってるんだけど」
『は、はい…』
エリはおずおずと箸でエノキをつまみ、そしてゆっくりとボクの口へと運ぶ。
しかし…
エノキは、途中で全て落下した。
「おい、何やってるんだよ春人」
「なんだか、手が震えてなかったか?」
『ふ、震えてません!これは、あれです。エノキが…エノキだから!ぬるぬるしてるからであって!」
「…ははっ」
どうして彼女の手が震えていたのか、その顔色が少し赤みがかっているのか。
それを想像するだけで、ボクは心から笑顔になってしまう。
「お、おい。天が すげぇ笑ってるぞ…」
「う、うん。珍しいね」
『ちょ、天!笑い過ぎです!エノキがお亡くなりになったというのに』
「あはは、ごめん。だってキミが、あまりにも」
“ 可愛いから ”
その言葉は、ボクの胸の中だけに留める。
「…なぁ、お前ら…なんか、変わったか?」
彼女は、TRIGGERを愛し過ぎている。そんなエリに、打ち崩せる隙は 果たしてあるのだろうか。
でも。
落とす牙城は、手強いほど 燃える。山は 高いほど、登り切った時に達成感がある。
いつか、このボクが。
キミの全てを手に入れよう。
「何も変わらないよ。ボクはアイドルで、彼は そのプロデューサーだ。
今は ね」
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