第43章 はじめまして
『敬語は…』
「え?」
『敬語は、使った方がいいですか』
「いや。ボクの希望が通るなら、ない方がいいな」
『じゃあ、春人じゃない今の姿の時は、敬語なしで』
「いいよ。キミが春人の姿じゃないなら、ボクとキミは アイドルとプロデューサーでもないからね」
『ありがとう』
「なるほどね。春人は、キミのスイッチってわけだ」
『相変わらず、察しが良くて助かるよ』
私達は、並んでまた空を見上げる。
恐怖すら感じる、美しい星空。
それは、まるで私達の為にあるのだと錯覚しそう。そんな夜。
そんなふうに思えるのは、きっと私の心が軽くなったから。
いつのまにか、自分で思っていたよりも 心の仮面は重くなっていたのだろう。
その仮面を、天の前で脱げたという事実が 私の心を解き放ってくれたのだと思う。
『あ!流れ星!』
流星の束が、2人の頭上に降り注ぐ。私は、生まれて初めて見るそれに声を上げた。
しかし天の方は、そんな小さな奇跡なんて見向きもしないで…
私だけを見ていた。
『……私の顔、流れ星より面白い?』
「ふふ、いや。ただね、本当のキミは そんなふうに笑うんだなって思って」
『そんなに変?』
「いや、可愛い」
『え…』
「凄く、可愛い」
隣に立ち、柵に肘を突いて。真っ直ぐにこちらを見て、彼は微笑んだ。
「へぇ。こっちのキミは、照れてる態度も分かりやすいね」
『っ…わ、悪い?』
「誰も悪いなんて言ってないでしょ。
それより、そろそろ教えて欲しいな」
『何を?』
「キミの、本当の名前だよ」
『あぁ…そっか。まだ言ってなかったね。
私の名前は、エリ。 中崎エリ 』
「そう… はじめまして。エリ」
私の名を聞いた彼は また、ふんわりと目を細めるのだった。