第42章 そんなの、私に分かりませんよ
環の甘いおねだりを断れるはずもなく、あれから いくつかの口付けを交わした。しかし、これ以上ここに留まっていては皆んなから不思議に思われてしまう。
私が そろそろ外に出ようと言うと、環は少しだけ渋ったが、意外と素直に従ってくれた。そんな彼の足取りは軽く、上機嫌なのが窺えたのだった。
そして、ようやく外に姿を現した私達の元に、4人は集まった。
私の周りにはTRIGGERメンバー。環の側には壮五が。
「遅かったな、春人」
「…何してたんだか」
『これ、探してたんです』
「あ、蚊取り線香!これもまた夏らしくていいなぁ」
私が緑の渦巻きを掲げると、龍之介はそれを受け取って火を付けた。
その隣では、環と壮五が笑って言葉を交わしている。
「大丈夫?随分遅かったけど、お腹でも痛かったの?」
「腹は、痛くねぇよ。だいじょーぶ」
「…あれ?環くん」
「ん?なに」
「もしかして、何か良い事あった?なんだか、嬉しそうな顔をしてるから」
「……へへっ、べつに!」
歯を見せて笑う環。そんな彼の後ろから、楽がガっと肩を組んだ。
「おわ!なに、びっくりすんじゃん」
「四葉、お前 花火すげぇ楽しみにしてただろ?打ち上げ花火も、仕掛け花火も、お前の為に全く手 付けてないんだぜ」
「ふ、ふーーん…」
「どうしたんだ?ほら、どれからやる?好きなの言っていいんだよ?俺が火を付けてあげる」
楽と龍之介は、1番年下の環を楽しませたいのだろう。あれやこれやと声を掛けるが、肝心の本人は乗り気ではない。
いや、乗り気じゃないというよりも…はしゃぎたいのを我慢してるようだった。
「環くん!どうしちゃったの?花火なんて、絶対に君の大好物じゃないか!」
「…あのな、そーちゃん。
大人の男は、花火ぐらいで騒いだりしねぇの」
環の台詞を聞くなり、私を頭痛が襲った。こめかみをそっと押さえて、軽く俯くのであった。