第5章 さぁ、何をお作りしましょうか?
「変わった名前のカクテルだな」
「こちらは、ブランデーとオレンジキュラソー そしてオレンジジュースをシェイカーで攪拌したものになります」
「へぇ。…これにも、何か酒言葉?とかあるのか?」
「勿論でございます。このカクテルが持つ意味は
“ 待ち焦がれた再会 ” 」
「…そうか。……ありがとう、マスター。
本当に…どこに消えたんだろうな。再会を、願わずにはいられないなんて。今まで、経験した事なかったんだ。
くそ…っ」
「私も、共に願いましょう。
貴方が 愛しい女性と再会出来る日が来ることを」
私が席に戻ると。彼の、彼による、彼の為の Lio 語りが始まった。
「衝撃だったんだよ。初めてだった。他人の歌を聴いてあそこまで感動したのは。
まるで雷に打たれたみたいに、体が動かなくなって…」
なんとも言えない気持ちで、私はマスターの方をちらりと盗み見る。
「………」
にっこりと顔に笑顔を貼り付けて、私の方を見ていた。
今まで職業柄、かなり色々な人間を見てきた自負はある。しかし…このマスターほど、心が透けない人間には お目にかかった事は無い。
マスターのカクテルを堪能して、楽の Lio 話を山ほど聞いて。私達はやっと Longhi's を後にするのだった。
とにかく、私は思いもかけず楽と仲直りをする事が出来た。その手助けをしてくれたマスターと この場所には、大いに感謝したい。
私にとって、絶対になくてはいけない 大切な場所。
「…ふふ。お酒と空間の力を借りて、少しでも皆さんが あぁやって心の重りを軽くする。すると
…いらっしゃった時よりも、帰る時の方が 明るい表情になる。
その顔を見る事が、この仕事をやっていて 一番嬉しく思える瞬間ですね」