第38章 待っててくれますか?
俺は、1人になった事務所で 手元に帰ってきたばかりのヘッドフォンと向かい合う。
それに そっと指を這わせて、瞳を閉じる。
彼女が、これを手放した意味に気付けてから…ようやく、本当にようやく。ヘッドフォンを自分の首に掛ける事が出来た。
そこへ到達するには かなりの時間を要したのだ。
だから、気付くのがとても遅れてしまった。
ヘッドフォンの中に入っていた、SDカードの存在に。
「エリは、言葉足らずなんだよ…まったく」
誰もいない空間で 独りごちてから、電源を入れて パッドを耳に押し当てる。
すると、彼女の歌声と。懐かしいピアノの音色が耳に響いた。
“ 退屈な 毎日 。変わらない 日々に
ビルの間から 見える空。
見飽きた景色に うんざりするわ。
そんな私の世界を
貴方は簡単にひっくり返した。
まるで映画の One scene みたいじゃない?
甘い言葉で 私は 踊り出すの。
本当に こんなのは Dramatic!
運命 なんて言葉は嫌いだったはずなのに。
貴方の口から出た言葉なら
なんだって 食べてしまいたい。
走り出した2人は 止まれない。
全てがslow motion になる。
貴方も私と同じ気持ちなら…
どうせなら、もう取り返しのつかないくらい
遠いところまで私の事を 攫ってくれたら…
まるで映画の One scene みたいじゃない?
貴方の魔法で 私は 踊り出すの。
本当に こんなのは Dramatic!
あぁ…早く、早く私を
迎えに来て。連れ去ってよ ”
これは、彼女が置いていった
俺へ宛てた
ラブソングだ。
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