第38章 待っててくれますか?
『ごめん百、少し遅れちゃった』
「もー!遅刻だよぅ!大人気アイドルのモモちゃんを待たせるなんて、エリちゃんくらいなんだから!」
私が店に着くと、頬を膨らませた百がいた。
予想以上に会議が長引いてしまい、約束の時間を少し過ぎてしまったのだ。忙しい百を待たせるなど、本来ならあってはならないのに。
「あっはは!ごめん、うそうそ!オレもさっき着いたばかりだからさ、気にしないで!っていうか、急に誘っちゃってごめんね。来てくれてありがとう」
『ううん。それは平気なんだけど。それより百、大丈夫?』
実は、彼に食事に誘われたのは 数時間前なのだ。
急に電話がかかってきて、焼肉に付き合って欲しいとお願いされた。
その時の様子が、いつもの彼と少し違っていたのだ。様子というか、声がいつもよりもワントーン低いような気がした。
「うーん。さすがはエリちゃんだね。そんな些細な違いに気付いてくれるなんて!超カンゲキ!オレは愛されてるなぁ」
『まぁ愛してるかどうかは、ちょっとあっちに置いといて。と』
「そこは置いとかないでよ!ちょっと待ってて!オレ今からそれ拾ってくるから!」
『あはは。良かった!いつもの百だ』
ノリノリでボケる百を前に、安堵する。さきほどの電話で元気がなかったように感じたのは、私の気のせいだったのかと思うくらいだ。
「あのね、本当に 落ち込んでたとか、ショックだったとか、そんなんじゃないんだよ。
ただね、ちょっと…エリちゃんに 一緒にいて欲しかっただけ」
『…何か、あった?無理はしなくて良いけど、話せる事なら聞きたいよ』
私は、百には何度も助けられて来た。実質的にもだし、精神的にも。
だから彼が、心に何かを抱えているのならば 助けになってあげたい。