第37章 どうか俺の
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「うーん、甘酸っぱいね。僕的には、肉饅が大好きな同級生に1番心掴まれたかな」
「どこを掘り下げようとしてるんだよ」
「ふふ、冗談だ」
綺麗に笑って、千は髪を揺らした。
彼に、ここまで詳細に聞かせたのは初めてだった。しかし、照れ臭いのでエリの名前は出さずに終始 “ 彼女 ” と置き換えていた。
「それで?その “ 彼女 ” とは、結局どうなったんだっけ?」
「覚えてるくせに聞くなよ…。
次の春が来る前に、振られた」
「そうだったね。しかも、万には何も告げずに 突然 姿を消したんだ。
まるで君が、僕にしたみたいに」
「だから、その件は悪かったって謝っただろう?俺にも色々と、思うところがあったんだよ!」
千は小さく溜息を吐いて、口角を上げた。
そう。エリは、俺の前から居なくなってしまったのだ。
おそらく、彼女にも彼女なりの事情があったのだろう。今となっては、それを確かめようにも方法は何もない。
「でも、万が認めるような才能の持ち主だったんだろう?それなのに、アイドルにはなれなかったのかな」
「それは、俺も考えてた。いつか、ステージに立つ彼女に会えるんじゃないかって。でも、残念ながらまだ出会えてない」
「やっぱりデビューしてないのか…」
「少なくとも、今 芸能界にいるアイドルは全部チェックした。当然、タレント辞典も全ページ見たよ」
「そうか。まぁ、仮にアイドルになっていなくても、どこかで元気に楽しく 暮らしていたら良いね」
「うん。俺もそう思うよ」
「ねえ万。もしも今 彼女に会えたら、どんな話をしたい?何を 訊きたい?」
俺は千の質問を受け、顎に手をやって考える。
エリを想うと、未だに胸が痛むけれど。それは、俺がまだ彼女に特別な感情を持ち続けているという証拠。
「そうだなぁ…。やっぱりまずは、この質問をするかな。
俺のことを、覚えていますか?」
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