第37章 どうか俺の
夏は良い。だって エリは、夏服がよく似合ったから。
『でね、私 今度はちゃんと言ったよ。万理の教え通り。笑顔で優しくね。
ごめんなさい。今は彼氏とかは考えられないので、生まれ変わったらまた来て下さいって』
「……多分それは、優しいとは少し違うと思うけど…まぁ、頑張ったんならいいか!」
『うん!私、なるべく頑張った』
「よし、偉い偉い」
俺が褒めてやると、彼女は目を細めた。そして、汗をかいたグラスに刺さったストローを吸い上げる。鮮やかな色の100%オレンジジュースが少し減った。
『どうして私には、万理の友達みたいな友達が出来ないんだろう』
「この間 エリが会った俺の友達は、中学からの付き合いで それなりに長く一緒にいるからな。
それに、競い合う環境にいる訳でもないし」
『そこが良いよね。純粋に、音楽を楽しむ仲間って感じ』
エリが努力しているのは間違いないが、やはりまだ学校に馴染めていないようだった。
きっと、彼女の “ アイドルになりたい ” という本気の想いが、周りとは異なっているからだろう。おそらく、同年代でここまで真剣に将来のヴィジョンを持っている彼女は異質だ。
「大丈夫。いつか絶対、エリにも本当の友達が出来るよ。大丈夫」
『…ん。
私、万理の “ 大丈夫 ” 好き。何だか、本当に何とかなりそうな気がするから』
「エリの不安が少しでも解消されるなら、いくらでも言ってやる。だから、何かあったらすぐ俺に教えて欲しいよ」
『ありがとう』
口では ありがとうと言うが。実際は、彼女は俺に頼らない。というか、周りに寄りかからない。
そもそもエリが、素直に周りに甘えられるような性格なら、きっとこんな苦労はしていないだろう。
「………」
(って、いうか…)
エリは簡単に好きとか言う!
分かってる。俺の事を好きと言った訳ではないことくらい。
でも それでも…
もし少しでも俺を意識していたら、その単語は簡単には口に出来ないはずなのだ。