第32章 TRIGGERだから
場所を再び作曲部屋へと移した。
私のお尻の下も、便器から演奏席へと変わる。やはりこっちの方がしっくり来た。
落ち着いたところで、私は3人に向き直る。
『あの、すみませんでした』
「…おう。分かれば良いん」
『特に龍には、ゲロの世話までさせてしまい』
「そうじゃねぇだろ!っていうかゲロとか言うな!」
「あのくらい 俺は全く気にしてないから、春人くんも気にしないで」
『天も、タオルと飲み物。助かりました』
「べつに」
『楽も………
ペットボトルのキャップ、開けてくれてありがとうございました』
「無理して感謝する理由見つけて来なくてもいいんだぞ」
演奏席に座っているが、ピアノには背を向けて彼らと向き合う。
未だかつてないほどの醜態を、3人には晒してしまった。だが それが功を奏したのか、随分と気分が落ち着いていた。
『楽が怒っている理由も、龍が声を荒げた理由も、理解しているつもりです』
「ボクも、今すぐ尻文字を強要したいくらいには腹が立ってるけどね」
『……苗字だけで、勘弁してもらえます?』
「冗談だよ」
天はそう言って、小悪魔みたいな笑顔を浮かべた。
『…貴方達の事を、頼りにしていないとか、信じていなかったとか。仲間だと思ってなかったとか。そういう訳じゃないんです』
ただ、知らなかったのだ。
今まで、1人で踏ん張る事しかして来なかった私は。
今まで、1人で全部背負い込む事しかして来なかった私は。
『知らなかったです。
人に頼る事が、こんなにも難しいなんて』