第31章 こっちを見ろ!!
『————♫』
(あぁ。
めちゃくちゃ気持ち良く声が出る。
これ…夢だな。)
私の、人生で1度きりのライブ。
この壇上も、衝撃を受けてる客の顔も、全部覚えがあるから間違いない。
何度この夢を見れば、私は解放されるのだろう。
『————♪』
楽しそうにステップを踏み、嬉しそうに声を張り上げる。
私は そんな自分を、まるで幽体離脱しているみたいに俯瞰で見ている。
(…あんなに幸せそうに歌っちゃって…
この後、どうなるかも知らないで)
『 』
壇上の私が、壊れる。
ピタリと発声が止まる。
『!? 』
どれだけ声を絞り出そうとしても、ただの一音さえも出てこない。
ステージの上で、喉を掻き毟る。
喉元に爪が食い込み、痛々しい赤が走る。
しかし、私は喉を引っ掻き続ける。
やがて爪が皮膚を裂き、鮮血が辺りに飛び散る。
『〜〜っっ!!は…、はぁっ…!!っ』
あと何回この夢を見れば、私は解放されるのだろうか。
歌を歌えない私は、誰からも必要とされない存在。
そんな事は、嫌というほど分かっているつもりだ。それを誰より分かってるから “ いらない ” と、誰かから言われる前に 自ら逃げ出したのだ。
あの、舞台から。
でも、私は 彼らと出会ってから、大きく変わった。
歌手としての命を落とした私だったけど。少しだけ、自分に自信が持てるようになった。
そう。彼らは、私の作る歌を必要としてくれている。
TRIGGERは、歌えない私でも 側に置いてくれる。
私は、昨夜完成したばかりの楽譜を抱き締めた。
『…これが…、曲さえあれば、作曲が出来れば、私は彼らのそばに居られる。大丈夫、大丈夫』