第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
【side 九条天】
当たり前だけど、突然現れた たった1人の男の手に 自分達の命運を握らせるなんてこと
ボクには絶対に出来ない。
何人もの人間が、ボク達を支えてくれている。
曲を作る人。ダンスを考える人。プロモーションをする人。スケジュールを組む人。その他にも、たくさんの人間が動いているのだ。
それを、たった1人の男の指示で動かしてしまうという。
そんなバカな事が。と思ったけれど。
社長は そちらの方が、有益だと判断した。だから彼をここに連れて来た。
もう一度言うが、ただ1人の人間に TRIGGERの命運を握らせる気は、ない。
でも…
いま彼が作っている新曲には、密かに期待している。
「おい天。今日はあいつ、レッスン室で身体動かしてたぞ」
「え?じゃあもしかして曲が出来たのか?!」
撮影の合間に、楽と龍之介がわざわざ報告してくる。
「…ふぅん。ちなみに、曲は流してたの?」
「いや、それがあいつ、ずっと無音の中で踊ってんだよな」
「そう。なら、曲はまだ完成し切ってない」
「そうなのかな。なんにせよ 無音で踊るなんて…とてもやり辛そうだ」
おそらくだが、彼は曲を作りながらダンスもイメージしているのだろう。
稀に、そういった表現者がいると耳にした事がある。
普通なら、曲が完成しきってから、それに合わせてダンスは考えられる。
しかし、彼のようなタイプは 同時に2つを組み上げていく。
曲とダンスが相乗効果で、互いをどんどん高めていき 100点以上の物が仕上がると聞く。
言わずもがな…そんな芸当をやってのける人間など、そうはいない。
努力だけでどうにかなるわけがない。類稀なる才能…それを彼が持っているのかどうか。そこが鍵だ。
「…彼は…本物 なのかな」