第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
『私の家、ここだから。送ってくれてありがとうね。楽』
未だ他人の熱が残る唇で、別れの言葉を告げる。
「いや、当然の事だろ。こんなのは」
楽は、私が自宅だと言ったマンションを 車内から見上げていた。それが、嘘だとも知らずに。
流石に本当の家を 教えるわけにはいかない。
『じゃあね…』
私はまた、嘘を重ねたのだ。
1つの嘘を隠し通す為に、あといくつの嘘を…積み重ねていくのだろう。
「エリ」
助手席の扉を開こうとした私の腕を、楽は掴んだ。
「また、会えるか?」
『きっと会えるよ』
——また嘘を重ねた。
「! だよな」
彼の ほっとした表情を見て、心がズキリとする。そんな痛みには気付かないふりをして。
『 “ また ” ね』
———嘘を、重ねる。
『チケット買って、ライブ行くから!』
——重ねる。
『贅沢して、最前列の席の買っちゃおうかな!』
—重ねる。重ねる。重ねる。
『私…TRIGGERが好き。大好き。ずっと近くで、見てるから。応援してるから。
貴方達が、トップに立つ その日まで』
——でも、これは 本当。
「待っ」
私は、彼の手をそっと外してドアを開ける。
『今日はありがとう。本当に楽しかった!楽が、本当の恋人だったら良かったのになって、心から思っちゃったよ!
じゃあね!』
——あれ?
じゃあこれは…本当?嘘?
嘘を重ね過ぎて、何が真実で何が虚偽なのか 分からなくなっているのかもしれない。