第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
「エリ!!」
楽の声が、頭上から聞こえた。
私は女と共に、地面に転がっているようだ。
顔を上げ、辺りを見渡すと、視界の端にナイフを捉えた。瞬時に立ち上がって、それを遥か向こうへと蹴る。
ナイフが手の届かない位置へ行ったのを確認後、初めて女へ馬乗りになる。そして背後で腕を捻り上げ拘束。
そこでようやく、息が出来る。
『はっ…はぁ、っ、は!』
思っていたよりも、息が上がっている事を初めて自覚した。
「おい エリ!大丈夫か?」
私は女の上に乗ったままで、首を縦に動かした。
「そうか…」
楽は、あからさまにほっと息をついた後 優しく言った。
「もう、大丈夫だから…その人離してやってくれ」
彼の言葉を聞いた後に、改めて組み敷いた女を観察する。
たしかに 全身の力が抜けており、もう抵抗する気力は残っていなさそうだ。
私はゆっくりと女の上から退くと、捻っていた腕の拘束を解く。そして、自分が蹴って飛ばしたナイフの回収に向かった。
冷静にならなければいけないのに、私の心臓はまだ、落ち着く気配すらみせてくれない。
自力で立ち上がれない女を、楽は腕を引いて立たせてやる。
「ぅ、…っ、私…私は、こんなにも 貴方を想っているのに…っ」
「ごめんな」
泣きじゃくる女に、ハンカチを差し出す。
「俺は、アイドルだ。
だから 誰か1人だけの “ 特別 ” には、なれねぇんだ」
「〜〜〜っっ、」
きっとあの子は、楽の事が大好きで大好きで。もう仕方がないのだろう。
だから、楽の言葉が より堪えるのだ。
好きだからこそ、あんなにも辛そうで…心が痛くて泣いているのだろう。それは理解が出来る。
では、どうして私まで胸が痛むのか。誰か理由を、教えてほしい。