第2章 …なぁ。俺達、どこかで会ったか?
扉を開けて、俺達が3人中に入っても 中崎はこちらを向く事はなかった。
無視を決め込んでいるのではなく、単純に こちらに気付いていない様子だ。
多少気は引けたが、俺は声をかける事にした。
「…おい」
『………』
「おいって!」
駄目だ。彼はピアノに集中していて、俺の声が届いていない。
「……曲調、随分ぐちゃぐちゃだね」
「え?」
天の言葉を聞いて、初めてピアノの音色に耳をやった。
……たしかに。まるでピアノを覚えたての子供が、心の底から演奏を楽しんでいるみたいだ。
高音を多く取り入れ、伸びやかで親しみやすい明るい曲調だと思いきや
急に短調が主体となった 暗いメロディに転じて。
次は荒々しく 速いテンポの激しい曲調に切り替わった。
「…どんな曲が作りたいのか、全く見当がつかねぇな」
「うん。でも、不思議だよね…彼の音を聞いてると、凄くワクワクする」
そう言った龍之介の横顔を盗み見る。
言葉の通り、今にも歌い出してしまいそうなくらいワクワクした顔をしていた。
「…ちょっと。…ねぇ!」
いくら声をかけても気付かない中崎。ついに天が、その肩を掴んだ。
『っ!わぁっ!!』
大きな声を上げて驚く中崎。その声は、普段よりも いくらか高い声だった。まるで女みたいな…
「…思ってたより元気じゃねぇか」
俺は買ってきた差し入れを、袋ごとピアノの上にそっと乗せた。
『ピアノの上に物を置かないで下さい』ギラ
「本当に元気そうだなぁあんた!」
軽く2.3人は殺した事があるかのような、ギラついた目付きで睨まれた。