第17章 光栄の至り
彼らが帰宅したあと、予想通り 当選者からの連絡があった。龍之介の相手からだった。
しかし…
『…20時か』
とうとう、電話受付窓口の終了時間を迎えた。
楽のデート相手からの連絡が、無いまま。
『……』
(予想が外れたな。ま、明日にでも連絡来るか)
マニアなら、1秒でも早く欲しい物は手に入れたいと思ったのだが。
もし私がソシャゲでUR(当たり)を引いたなら、一刻も早くデッキを組んで遊び倒すのに。
ちなみに、今回の企画をガチャとして考えるなら、当たりは 3/99999だ。
何故、分母が10万ではないのかと言うと、当たりを入れる前のCDを私が1枚購入しているから。
そう考えると、途方も無い確率だ。
自分がまたソシャゲのガチャと、企画を混同して考えている事に はたと気が付く。それがなんだが可笑しくて、気が付くと口元が緩んでいた。
コンコン
ノックの音で、自然に笑みが消える。
『どうぞ』
「失礼します。プロデューサー、会場の撤収作業 さきほど全て完了しましたよ」
入って来たのは、楽ブースの物販を担当してくれた事務所のスタッフだ。
『お疲れ様です。片付けを全てお任せしてしまい、すみませんでした』
「いえいえ!全然ですよ!
あ、それとこれ…取り置きしてたやつです」
彼が私に差し出したのは、1枚のCD。言うまでもなく、今回の物販で売っていたもの。
私は、あらかじめ彼に頼んで購入していたのだった。
『ありがとうございます』
「プロデューサー、毎回 今までのCD 全部買ってますよね。
それって、TRIGGERのメンバーは知ってるんですか?」
『言ってませんよ』
私は彼からCDを受け取る。
「教えてあげればいいですのに。きっと、彼ら喜びますよ」
『いえ。これからも、言うつもりはないですよ。
だってこれを買っている私は、TRIGGERファンの1人過ぎないのですから。
名乗る必要なんて、ありません』
私はCDを、丁寧に鞄の中に忍ばせた。