第16章 泣いてなんて、ないよ
「俺、CD聞いたんだぜ!」
『CD?何の?』
ステージ際に腰を下ろして、足をぶらぶらさせながら環は申し訳なさそうに言った。
「へへ、あんたの」
そうか…。環は、Lioのファーストライブを 聞いたのか。
私の全盛期の歌声を、聞いたのか。
「すっげーー!って、思った!やっぱえりりんだ!ってなった!
初めて、あんたの歌聞いた時みたいに、涙が出て そんで、俺も負けてられねー。俺もすぐに歌いたいって思った!」
すくっと立ち上がると、彼は再びステージの中央へと仁王立ちになって、大きく息を吸った。
そして、歌った。
「 」
彼が歌うのは、何の変哲もない、ありふれたラブソング。何度だって聞いた事がある。
しかし、そんな聴き馴染んだはずの名曲も、彼が歌えばまるで知らない曲みたいに感じてくるから不思議だ。
それにしても…やはり、MEZZO"の四葉環だ。彼の歌声は、ここ最近テレビでよく耳にしていた。
良くも悪くも、彼にはムラがある。しかし、今のように調子が良い時は…こうして聴く者の心を引っ捕まえてしまう。
「 」
『ふふ』
(気持ち良さそうに歌うなぁ)
あ。今 音を外した。
…また。半音外れた。
ああでも、そんな事をいちいち気にしているこっちが馬鹿馬鹿しく感じるのだ。
ただ、耳が…心地良い。
私は、息を肺に溜め込む。
『………』
絶対今の彼に、合わせてみせる!