第16章 泣いてなんて、ないよ
【side 二階堂大和】
最近、うちのエロ担当がおかしい。
「おーい、タマー」
「………」
こんなふうに、あからさまにボーっとしてる時間が増えた。何をするでもなく、視線をただ宙に彷徨わせている。
まさか、恋の悩みか?
この間、環に デートに行くのだと嘘をつかれた事があった。何故、それが嘘だったのか分かったかというと。その相手を俺がこの目で確認したからだ。
すると、そいつはなんと男だったのだ。
もしや、今度は本当に 想い人が出来たのだろうか。もしそうなら…不器用で馬鹿正直な この男に、アイドルと恋愛の両立は可能か?いやいや。そんな高等技術が環に備わっているとは思えない。
「タマちゃん。プリン食う?」
「食う」ギラ
まぁ、王様プリンへの執着だけは健在だ。
寮のリビングで、環は俺が与えたプリンを貪り始めた。そして大切に食べ進めるも、たかが一個のプリンは瞬く間に消えた。
「ごちそーさまでした」
「はいお粗末」
「…はぁ」
今度は溜息。明らかにここ最近、元気が無い。しかし彼とて思春期の男子高校生だ。こんなふうに多少情緒が乱れるのは、きっと自然の摂理というやつだ。
そして。年の離れた最年長の俺が、そんな彼を見ていると…ついつい世話を焼きたくなってしまう。だがこれもまた、自然の摂理なのだろう。
「なぁタマ。べつに言いたくないなら言わなくていいんだけどな…。お前さん最近何か悩んで」
「なぁヤマさん」
「お、おう」
環の真剣な瞳が、バッチリと俺の顔を捉えている。
「Lio って知ってる?」